第57話   黒鯛の繁殖と釣   平成15年11月10日  

黒鯛の繁殖について知っていて釣りをしている釣り人は、果して何人居るだろう?

今年の庄内は、何処に行っても黒鯛の幼魚(当地方で篠野子鯛)が見当たらない。いつもの年だったら岸壁の際をのぞくと20〜30匹の群れが見つける事が出来た。当地の名物である秋の篠子鯛釣りの姿が今年は見えなかった。釣れるほどの数が居ないからである。

今年は春の終わりからずっと冷たい東風に見舞われた。
今夏は涼しくてクーラーなど殆んど使ってない。東北の家電屋さんは夏の人気商品であった冷房機器がまったくといって良いほど売れなかった。知り合いの家電量販店の人に聞いたら、注文して翌日の午前中には、取り付けられたと云う。いつもの年だったら早くて
10日待ちの状態で暑かった年等は3週間待ちもあったそうだ。冷夏を予想してか6月の時点で夏に冷房機器を殆んど使わなかったら何割か返金するといった販売業者まで現れた。

黒鯛は春も終わりになる頃、川水が流れ込む汽水地域や浅海の入り江とか湾内の奥に入って来て産卵する。卵は分離性浮遊卵と呼ばれ海水の表面に浮いて漂う。ここでの水温が孵化率を左右する。浮上した時の温度が20度であっても潮の変化などで温度が下がると殆んど死滅してしまう。逆に温度が高くなってもいけない。15日前後で魚の形にまで整うのであるが、この間の潮、天候、温度の影響でも死滅すると云う。このように一匹の黒鯛の稚魚が無事年を越すまでには、幾多の難題が控えているのである。

今年のように黒鯛の幼魚がさっぱり見当たらない年は、以前の状態にまで回復するのに最低数年はかかる。しかし、冷夏が翌年も続けば・・・最低10年はかかることになるだろう。魚は有限なのだ。

最近は、春の黒鯛釣りが盛んである。腹ボテの黒鯛は、比較的簡単に釣れる。釣れるから皆んなが釣に行く。競うように腹ボテの大型を狙っている。今日の一枚は明日の0枚に繋がっている事を意識して釣っている者は殆んどいない。

庄内浜のある釣具店では、釣りの倶楽部と提携して稚魚を集める為と称して春の磯釣り大会を模様している。もちろん一石二鳥を狙っての事であるが、採卵を行い更に募金を集めて、秋には各所にたくさんの稚魚を放流している。最も酷いのは其の稚魚の放流の話を聞いて、放流した場所に釣に行くバカ釣師が居る。折角の善意の放流をなんと思っているのか?折角の善意の放流をなんと思っているのかと残念でたまらない。

武士の釣りとして誇りを持ち黒鯛の春の釣りは絶対に遣らなかったと云う風習は・・・何処に行ってしまったのか?

其の風習があったればこそ今まで釣が出来たのに・・・?

放流した尻から釣るバカ釣師が居ると思うと泣くに泣けない状態である。